「日本人なら身につけたい江戸の『粋』」植月真澄

「落語の本か?」と突っ込まれそうだが、「落語的」「江戸的」精神の本、ということでご勘弁のほどを。
これはいい本だ。序章で「粋を大切にする暮らし方に欠かせない3つのポイント」が説明されている。
(1)気持ちや身なりがさっぱりと垢抜けていること。それでいて、どことなく色気があり、品格もある。
(2)人情の機微に通じていることだ。自分本位、自分勝手は最低最悪。これほど格好悪いことはないと考えられていた。
(3)洒落ていること。洒落とは、どこか現実を突き放し、面白がってしまおうとする精神をいう。
具体的な江戸の「粋」の例として、第二章の「-人として守りたいルールを尊ぶ- 『粋』に振る舞い、はからう」で、代表的な゙江戸しぐざが紹介されている。
「傘かしげ」
雨や雪の日、傘をさして人とすれ違うときに、相手にしずくが落ちないように、
傘を傾けること。
「肩引き」
同様に、人とすれ違うときの心づかいとして相手側になる肩や腕をちょっと
引いて通りすぎ、ぶつからないようにすること。
「こぶし腰浮かせ」
渡し場で船が出るのを待っているとき、後から乗ってきた客があれば、こぶし分
だけ腰を浮かせて席を詰め合うこと。
「詰めてください」といわれてから詰めるのは「野暮」なのだ。
落語でも、混んだ場所に人が詰めあうとき、登場人物が当たり前のこととして「お膝おくり」をするではないか。
゙江戸しぐざそのものについては、越川禮子さんによる多くの著作がある。
越川禮子_暮らしうるおう江戸しぐさ
本書では、「子別れ」や「天災」などで語られる『三行半(みくだりはん)』の一般的文章も紹介されている。なかなかお目にかかれるものではない。
また、幕府の厳しい奢侈禁止令にもめげず、いっけん地味な着物の裏や襦袢に鮮やかな色を使う、江戸市民の粋な反骨精神のことや、最近マスコミでもよく話題になるが、「リサイクル」してモノを大事に使うことで゙環境にやさしい゙江戸の生活も説明されている。
そして、適度にはさまれる川柳が、またうれしいのである。
納豆としじみに朝寝起こされる
初かぼちゃ女房はいくらでも買う気
うららかさしきりに銭が欲しくなりなど、それぞれに光景が目に浮かぶんでくるではないか。
初対面では、(1)生まれや出身、(2)年齢、(3)過去や家族、を尋ねない、という「三脱の教え」も、全国各地からさまざまな人が集まる江戸ならではの人付き合いの重要な知恵であったのだろう。
今日では、時と場合によっては、出身などを聞くことから話が円滑になる場合もあるが、たぶんにこれはビジネスでの会話でのみ許されるのであって、ご近所づきあいやプライベートでは、「三脱の教え」は十分有効であるし、今や失われていく大切なマナーである。
電車の優先席に、どう見ても健康そうな若者が我が物顔で座り、携帯ゲームをやっているのが、今日の日常風景である。電車の「優先席の近くでは携帯電話をお切りください」というアナウンスが、どれほどむなしく、そして腹立たしく聞こえているか、保守的な電鉄会社の社員は気がつかないのだろうか。加えて携帯音楽プレーヤーの騒音被害も日常である。
江戸の「粋」の大原則の一つが、他人に迷惑をかけない、ということであり、迷惑なヤツは「野暮」なのである。「野暮」ばかりの世の中、「粋」や「いなせ」にこだわりたいものだ。
そこで考えた。電車やバスのアナウンスは、次のような内容にしてもらいたい。。
「健康な若者は将来メタボにならないよう立ちましょう。なお、携帯音楽プレーヤーから漏れている騒音にぶち切れたお客様からあなたがなぐられても、当社は一切責任を持ちません」
このくらいのユーモア精神と「粋」でマニュアルを変えてはいかが、JRさん私鉄さん。マニュアル世代に「行間を読め」などという小言は、残念ながら通じない。
植月真澄_日本人が身につけたい江戸の「粋
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